■ ラ線上の真実 1 ■
 A5フルカラー  84P 170g 平新
¥ 900  (210円)
Novel  綾部 澪
* 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *
日常と非日常の境界線は、非常に曖昧で、
非日常は日常の中に簡単に埋没する。
人が『非日常』だと思っているものは、
実は『日常』と同時に存在するのだ。

そんな、日常に飲み込まれていた。




 快斗 ―― 0、


「ぼっちゃま、快斗ぼっちゃまっ! 大変でございます」
 いつもと変わらぬ静かな朝は、階下から飛んだ、けたたましい声の前に、ガラガラと音をたてて崩れ去った。
「なんだよ。朝っぱらから、うるさいなあ」
 ベッドの中でふか〜い眠りについていた快斗は、ぶちっとつぶやきながら、枕もとの時計に手を伸ばした。重い目を無理やりこじ開けてそれを見ると、時計の針は五時十四分を指していた。昨日――いや、今日の就寝が遅かったことを考慮しなくても、起きるにはまだ早すぎる。
「マジかよ……。勘弁してくれ」
 時計を見た瞬間、全く起きる気のなくなった快斗は、そのままベッドに吸い込まれた。
「ぼっちゃまっ。寝ている場合ではありません。起きてください!」
 起きてくる気配のない快斗に業を煮やしたのか、先ほどまでは階下で聞こえた声が、徐々に近づいて来た。そして、とうとう部屋のドアは開け放たれた。
「ぼっちゃま! 起きてくださいっ!」
 興奮して、いささか高くなった寺井の声が、重い――まるでウレタンを目一杯詰め込まれた、思考能力ゼロの頭にジンジンと響いた。
「寺井〜〜〜〜。せめて、後一時間は寝かせてくれよ。俺、寝たの三時だぜ?」
「そんな、のんきな事を言っている場合ではありません」
「のんきって、まだ五時だっつーの」
 言った快斗の声など聞こえていないのか、それとも無視を決め込むことにしたのか、寺井は快斗の目の前にずいっと新聞を突きつけて言った。
「これをご覧くださいっ」
 差し出されるままに新聞を受け取ってしまった快斗は、かすむ目を擦りながら新聞の一面を見やった。そこに、大きく載った記事が目に入った瞬間、快斗の眠気はいっきに掻き消えた。
 そこには『蒼の貴婦人、盗まれる! 怪盗キッドの仕業か?』という、見出しが大きく踊っていた。
「――どういうことだ?」
 その記事を穴があくほど、まじまじと見やった快斗が中身を読み進めると、見出しにあった通りの内容がそこにはあった。
「おい、冗談だろ?」


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