■ Pandora ■
 A5フルカラー  100P 200g 平新
¥ 1,100  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま

* 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *
戦死者を選定する――。
それが、神話におけるワルキューレの役割。


0、

 快斗から新しく手に入れたデータを眺めていた新一は、目頭を押さえた後、ううんっと大きく伸びをした。あたりはすっかり暗くなっていて、パソコンの光がぼんやりと室内を照らしていた。
 快斗がデータを持ってきたのは、すでに昨日の事だった。このデータを手にしてからでも、それなりの時間がたったという事だ。
 ちらりっと腕時計に視線を走らせると、もうそろそろ、七時になろうとしていた。
 時計を確認し続けて、もう何時間になるだろうか。ぎゅっと唇を噛んだ新一に、平次は首を傾げながら「工藤?」と、その名を呼んだ。
 緩慢な動きで振り返ると、平次の真っ直ぐな視線は新一に向いていた。
「どうかしたんか?」
「――いや」
 短く返した新一は、何でもないというように腕時計を隠した。
 薬の効力は、服用してから二四時間のはずだった。
 正確な時間は見ていなかったから覚えがないけれど、平次の部屋に戻ってきた時間ですら、七時は過ぎていたのだから、服用してからとうに二四時間は過ぎているわけで。
 もしかしたら、戻らないのではないか――。

 脳裏をよぎったそんな思いに、新一は慌ててそれを否定するように首を振った。
 効果が厳密に二十四時間だと、決まっているわけでは勿論ない。体調によって、多少の誤差が出ることぐらい、当たり前のはずだし、心配しすぎる事はないはずだ。そう自分に言い聞かせるのだが、一度湧き上がった不安を拭い去る事は出来なかった。
 元の身体に戻る。
 それは『江戸川コナン』になってしまってから、ずっと願ってきた事だった。戻れるものなら、今すぐにでも戻りたい。けれど、まだ何も片付いていない今の状況では、戻る事は時期尚早なのだ。
 戻りたいのに、身体が戻らない事を心配しなければならないなど、何とも皮肉なものだと思う。
 そういえば、いつかも、こんな思いをした。
 しかもあの時は、自ら薬を飲んだわけでもなく、何の前触れもなく突然元に戻ってしまったから、今よりももっと不安で仕方なかったのだけれど。
 小さく息をついた新一に、平次はポンッと頭に軽く手を乗せた。
 心の中の不安を、平次に感じ取られたのかもしれない。
 ふと、そんな事を思った。
 危険は承知の上で、さっさと元の姿に戻りたいと言ったのは、つい昨日の事だというのに。そう思うと、何とも情けない気分になった。
「気にせんでもええで」
 すべてを見透かしたような平次の言葉に、新一はまるで気にしていないという風を装って口を開いた。
「何がだよ」
「体が元に戻らへんコト、気にしとるんやろ?」
「……」
 喉元まで出かかった弱音を、ぐっと飲み込む。
 そんな新一に、平次は小さく肩をすくめると口を開いた。