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7、 「工藤……っ」 平次のかすれた声が、手術室の前の廊下に吸い込まれた。 祈るように、両の手を握りこんだ平次は、その手をぎゅっと額に押し付けた。 うすぼんやりと灯っている、手術中のランプ。 あれがついてから、一体、どれだけの時間が流れたのだろうか。ついっと時計に目をやると、新一が手術室に入ってから、まだ、五分とたっていなかった。 先ほどから、まったくと言ってもいいほど、進まない時計の針。それなのに、わざわざ一秒一秒音を立てて、正確に刻む秒針を、この場でもぎ取ってやりたい衝動に駆られた。 こんな時にも、自分は何も出来ない。 そんな苛立ちに、平次はぎりっと歯噛みした。 あたりを支配する静寂が、なんとも息苦しかった。 このまま、新一の意識が戻らなかったら――。 ふいに脳裏をよぎったそんな思考に、平次は凍りついた。 「そんなわけ、あらへんっ」 言いながら平次は、ぶんぶんっと頭を振った。 打ち消しても打ち消しても、まるで打ち寄せる波のように次々と不安が生まれる。 指先が微かに震えているのは、底冷えする寒さのせいではないだろう。 平次は、大きく息を吸い直すと、ぎゅっと唇を噛んだ。 まるで眠っているかのように、雪の中に横たわっていた新一の姿は、今も脳裏に焼きついていた。 雪に溶けていってしまいそうなほど、白く、血の気のなくなった新一を抱き起こすと、その身体は、まるで氷のように冷たくなっていた。 一体、どれだけの時間、あの冷たい雪の中に倒れていたのだろうか……。 「何で、こんなことになったんや」 |