■ 真白に奪われゆくもの ■
 A5フルカラー  92P 180g 平新
¥ 1,000  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま

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 いつもの場所にバイクを止めた平次は、ヘルメットを取ると、軽く頭を振った。
 そして、背中に背負ったディパックを下ろす。それと同時に、今まで暖かかった背中に冷気が入り込み、ぶるりと身を揺らした。
 ついっと空を見上げると、厚い灰色の雲に覆われていた。
 丁度、寒気団が流れ込んでいるらしい。もしかしたら、明日あたり、大雪が降るかもしれないと、ニュースでも流れていた。
「雪……か。厄介やな」
 頭上に広がった重苦しい灰色に向かって、平次は苦々しく言った。この東京では、ほんの数センチ雪が積もっただけでも、交通機関は麻痺してしまう。
「ま、ええか。明日はバイトあらへんのやし」
 大学は、とうの昔に冬休みに入っている。バイトさえ入っていなければ、別段外出などしなくてもいいのだ。ならば、雪に降られようと、何ら問題はない。
 それに――。
「東京でも降るんやったら、スキー場の方も、間違いなく降るやろしな」
 ぽつりと言った平次は、ちらりっとディパックに目をやると、思い出したように、にんまりと笑った。
 先ほど旅行社で、スキーパックのパンフレットをいくつか拾ってきたのだ。今年の冬は暖冬で、スキー場にも、あまり雪がないというような事を言っていたが、ここで降ってくれれば、そんな心配はしなくてもいいだろう。
「問題は、雪よりも、工藤やな」
 言いながら、平次は嘆息した。
 別に、どうしてもスキーに行きたくて、このパンフレットを持ってきたわけではなかった。
 動機はすごぶる単純で、ただ単に、新一と一緒にどこかに出かけたかっただけだった。出かけられるのであれば、別にスキーでなくてもかまわないのだ。
 けれど、旅行に行こうなどと言えば、即座に「何でだ?」と返されそうな気がして、その口実として、『スキーパック』を利用したのだ。

 だが……。