■ 薄ら氷の櫻 ■
 A5フルカラー  84P 170g 平新
¥ 900  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま

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 後ろポケットに突っ込んであった携帯が、ぶるりと震えて、事務所のソファーで本を読んでいたコナンは、「うわっ」っと小さな声を上げて立ち上がった。
 そんなコナンを見やり、小五郎が散らかしたビールの缶や書類を片付けていた蘭が、首を傾げながら言った。
「コナンくん、どうかしたの?」
「な、なんでもないよ。携帯がぶるってして、びっくりしちゃっただけ」
 言いながら、へへへっと笑ったコナンは、ポケットから携帯を取り出すと、ちらりっと発信人を確認した。そこに表示された『服部平次』の名に、コナンは蘭に気付かれないように舌打ちした。
「僕、ちょっと電話してくるね」
 そう宣言して、事務所を出たコナンは、急いで自分の部屋に足を向けた。
 部屋に入って一息ついたコナンは、ようやく着信ボタンを押した。回線が繋がって「もしもし」と言おうとした、その瞬間、『遅いっ!』と言う大きな声が耳元で響いた。
 慌てて耳をふさいだコナンは、顔を顰めながら携帯を耳元から離した。
 少しばかり出るのが遅れただけで、何故ここまで言われなければならないのか。一瞬、このまま切ってやろうかと思ったが、どうにか思い留まったコナンは、思い切り不機嫌そうな声を出した。
「うっせぇな。おっちゃんの事務所にいたんだよ。蘭がすぐ横にいるのに、そうすぐに出られるかよ」
『別に、かまへんやん』
「お前は構わなくても、オレが構うんだよ」
『なんや、面倒やな』
 言った平次に、コナンは思わず深い溜息をついた。
「で? なんか用か?」
『別に、用って程の事でもないんやけどな』
 その言葉に、コナンは思わずむっとした。
 よく、平次はこうやって、わけもなく電話をかけてくる。別にそれが悪いとは言わないが、毎回毎回、それに付き合わされる、こちらの身にもなってもらいたい。
 新一宛に、平次から電話が掛かってくるのなら、まあ、それほど不自然ではない。だが、平次からコナンに電話が掛かってくると言うこの状況は、はっきり言って不自然なのだ。