■ 太陽の標 〜Finale〜 ■
 A5フルカラー  116P 210g 平×新+快→平
¥ 1,200  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま
* 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *

『工藤っ』

そう、呼ばれたような気がして、新一は振り返った。
だが、そこには、先程までと変わらぬ静寂があるだけだった。


ついっと時計を見やる。
十二時少し前だった。

「気のせい――か」

そう呟いては見たものの、胸中には得体に知れない不安が、
じんわりと広がりつつあった。



0、
 今日から、ようやく冬休みに入った。
 別に、休みを心待ちにしていたわけではない。
 それなのに、昨日、作りすぎたからと言ってポトフを持ってきた蘭は、いつもより多く買い込まれた食糧を見やり「服部くんが来るのね」と笑いながら言った。
 そこで、平次の名前を出されたのは、なんとも不本意だった。確かに、普段はそれほど買う事もない菓子類や、ペットボトルが買い込まれているのは事実だ。けれど、それは、それこそ、冬休みに入ったからで、平次は関係ない。
 まるで言い訳でもするようにそんな事を思った新一は、くしゃりっと前髪を掻き上げた。
「ったく。どうかしてる」
 ぽつりと言った新一は、小さく息をついた。
 平次が来るのを心待ちにしているくせに、それを認めたくない自分もいて。
 何故、認めたくないのか。
 新一自身、その理由は分からなかった。
 いや。分からないと言うのは、正しくはない。
 なんとなく、そういう感情を表に出したくないだけだ。
 そんな自己分析に、嫌気がさしてきて、新一はソファーにごろんっと横になった。