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『工藤っ』 そう、呼ばれたような気がして、新一は振り返った。 だが、そこには、先程までと変わらぬ静寂があるだけだった。 ついっと時計を見やる。 十二時少し前だった。 「気のせい――か」 そう呟いては見たものの、胸中には得体に知れない不安が、 じんわりと広がりつつあった。 0、 今日から、ようやく冬休みに入った。 別に、休みを心待ちにしていたわけではない。 それなのに、昨日、作りすぎたからと言ってポトフを持ってきた蘭は、いつもより多く買い込まれた食糧を見やり「服部くんが来るのね」と笑いながら言った。 そこで、平次の名前を出されたのは、なんとも不本意だった。確かに、普段はそれほど買う事もない菓子類や、ペットボトルが買い込まれているのは事実だ。けれど、それは、それこそ、冬休みに入ったからで、平次は関係ない。 まるで言い訳でもするようにそんな事を思った新一は、くしゃりっと前髪を掻き上げた。 「ったく。どうかしてる」 ぽつりと言った新一は、小さく息をついた。 平次が来るのを心待ちにしているくせに、それを認めたくない自分もいて。 何故、認めたくないのか。 新一自身、その理由は分からなかった。 いや。分からないと言うのは、正しくはない。 なんとなく、そういう感情を表に出したくないだけだ。 そんな自己分析に、嫌気がさしてきて、新一はソファーにごろんっと横になった。 |