■ Pandora ■
 A5フルカラー  120P 220g 平新
¥ 1,300  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま

* 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *
閉じられたパンドラの箱の底に残ったのは、
希望か、それとも、絶望か――。



0、

 メモリスティックを、コロンと手の中で転がしたコナンは、小さく息をついた。
 組織に関するデータが入っているかもしれないという、このメモリスティックを、先の報酬として快斗から受け取ったのは、丁度クリスマスだったか――。
 気がつけば、すでに半年が経とうとしていた。
 にもかかわらず、ここに入っているデータの調査は、一向に進んでいなかった。
「俺も、律儀に約束なんか、守ってなくてもいいんだけどな」
 ポツリと呟いたコナンは、再度、深い溜息をついた。

 一人では、このデータの調査はしない。

 それが、このメモリスティックをコナンが保管する為に、平次と交わした約束だった。
 その約束を違えることなく、この半年を過ごしたが、もうそろそろ、限界だった。
 この半年で、このデータを調べられたのは、データを手に入れた直後――平次が東京に居座っていた、クリスマスから年末までの間以外では、ほんの数回だった。
 受験だなんだと、春まで忙しそうにしていた平次は、あまりこちらに来る事はなかったし、たまに来ていたとしても、事件に巻き込まれるのがオチで、ゆっくりと腰をすえてデータを調べる事が出来たのさ、最初の一回だけだ。
 だが、その一回も、何を主軸に調べたらよいのかも決められなくて、ほとんど進展はなかった。
 こんな状態では、たまにデータを開けたとしても、そこに行き着く前に、時間切れで。たとえ、何かを思いつきそうな流れになったとしても、一旦中断された作業を次に始めるときには、やはり、振り出しに戻っている。
「何が、焦らなくてもいい、だよ」
 独り言ちたコナンは、ごろんっと床に横になった。
 件の鍵からたどり着いたデータが、何らかの糸口になるかもしれないから焦るなと、平次が言ったのは、このデータが手元に来る前の話しだ。
 だが、現状は、データが手元にあるこの状態でも、何も進んでいない。これが、焦らずにいられるだろうか。
 早くこのデータの意味を読み取って、少しでも早く、元の身体に戻れる状況を作りたいと言うのに。
 いや――。
 まだ、解毒剤が完成していない今、そんな事を考えるのは取り越し苦労なのかもしれない。
 けれど、平次は、このデータの意味を紐解く事を、躊躇しているような印象を受けるのだ。現時点では、ココにしか、組織につながる手がかりはないというのに。
 もちろん、FBIからの情報提供がまったくないわけではない。だが、こちらに危害が加わるかもしれないと言う状況にでもならなければ、その情報も流してはくれないから、こちらとしては、動きはとれないのだ。
 だからこそ、この手にあるデータを何とか活用したいと思うのだ。それは、そんなに悪い事だろうか。
「いっその事、調べちまうか?」
 メモリスティックをじっと見ながら言ったコナンは、その視線をテーブルの上に置きっぱなしになっているノートパソコンへとやった。
 コナン一人では調査をしない。
 それを信じたからこそ、平次はこのデータをコナンの手元に置いて言った。その信頼を、自らの手でぶち壊す事など、やはり出来なかった。
 むくりと起き上がったコナンは、メモリスティックを机の引き出しに仕舞い込んだ。目に付くところに置いておくから、気になるのだ。それならば、見えないところに仕舞い込むに限る。
 小さく息をついたコナンは、再度ごろんっと寝転がった。そして、ちらりっとカレンダに視線を向けた。
「そういや、最近、顔ださねーな。あいつ」
 春から大学生になった平次は、こちらに来てから、しばらくの間は、毛利探偵事務所にもちょくちょく顔を出していたが、この頃姿を見せていなかった。
 下宿先に工藤邸を貸してやると言ったのに、それも断ってきた平次は、この事務所に程近い場所にアパートを借りた。平次があの家を使ってくれれば、コナンもいつでも出入りできる。そう思っていたのに、まったく想定外だった。
 ある意味、自由の利かない居候の身としては、思い通りに振舞える場所が欲しかったと言うのに。
 それを、平次が分かっていないはずなどないのに、何故、受けてくれなかったのか。そんな不満だけが残った。
 ――と、ポケットの中で、携帯がぶるりっと震えた。
 ちらりとそちらに目を向けたコナンは、小さく息をつくと、ポケットから携帯を取り出した。平次からだった。