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まるで、音もなく積もる雪のように、 すべてが、白く塗りつぶされた――。 1、 年に一度降るか降らないかの雪が、つい二、三日前にちらちらと舞った。 うっすらと積もった雪が、例の如く交通機関等にある種の混乱を巻き起こした。その混乱も、雪とともに消え去り、すでに世間は何事もなかったかのように動き出していた。 そろそろ、三月の声を聞こうと言うこの時期。 ゆっくりと寒さが緩み、あたりが春色に塗り変えられつつあっただけに、この寒波は骨身にしみた。 「寒そうやな……」 がたがたと窓を揺らした強風に、平次はぽつりと言った。窓の外には、数日前までの春めいた青空を否定するような、灰色の空が広がっていた。 当然の事ながら、積もった雪は次の日には消えた。 だが、寒気はしつこく日本列島に停滞しているようで、まだしばらくこの寒さが続くと、ニュースでも言っていた。 風に煽られ揺れている木々が、余計に寒さを増殖させているようで、これから外出しなければならない平次はゲンナリした表情を浮かべた。 「あ〜、行きたないな」 深い溜息とともに言った平次は、ソファーにごろんと寝転んで小説を読んでいる新一に視線を走らせた。 「なあ、工藤」 「ん〜?」 新一は本から視線を外すことなく、実に気のない声を上げた。いつもどおりのその新一の反応に、平次は新一の視界に入る位置まで歩み寄って、口を開いた。 「今日、工藤も大学行くゆっとったやろ?」 平次のその言葉に、新一は本から視線を上げると、首をかしげた。 「んな事、俺は言ってないぜ?」 実に不思議そうに言った新一の言葉に、こんどは平次が首をかしげる番だった。 「……せやったか?」 平次の記憶では、確か新一も今日、大学に行く用事があると言っていたような気がした。平次自身も大学に行かなければならないと思っていた日だったから、一緒に行けると思っていたのだ。 記憶違いなどではないと思うのだが――。 納得いかない、というような表情を浮かべている平次などお構いなしに、新一は言った。 |