■ 真夏の夜の夢 ■
 A5オフ  76P  平新
¥ 800  (210円)
Novel  綾部 澪 ・ Comic 結織さま
 / Illustration  小椋さよこ さま

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「好きだせ」


 ぽろりっとこぼれたそんな言葉に、平次は眼をまん丸に見開いた。
 何を言われたのか分からない、というような表情を浮かべた平次は「へっ?」と、いささか間抜けな声を上げた。
 そんな平次を見やり、新一は懸命に笑いをかみ殺しながら言った。

「冗談だよ、冗談」


1、

 どかどかと、部屋に上がりこんだ新一は、玄関で呆然と立ち尽くしている平次を視界の端に引っ掛けながら、口元に笑みを浮かべた。
 そして、ソファーに腰を下ろすと、机の上に置かれていたテレビのリモコンに手を伸ばした。テレビを付けると、静かだった部屋がとたんに騒がしくなった。
 平次はと言えば、何のためらいもなく部屋にあがりこんだ新一と、自分の足もとに散らばっている空き缶とを見比べていた。

 足もとに散らばった空き缶――。

 それは、新一に手掛かりを残すためとはいえ、不用心にも、部屋の鍵を掛けずに外出した平次の為に新一――いやコナンが作った、トラップの残骸だった。
 もし、鍵のかかっていないこの部屋に、誰かが進入しようとした場合、ドアの向こう側にセットされた空き缶の山が崩れるだけという単純な仕組みだ。とりあえず、空き巣への牽制くらいにはなるだろうと思ったのだ。
 トラップの存在は、部屋に戻る直前に平次には教えておいた。だが、それがどんなものであるかまでは、当然の事ながら告げてはいなかったから、平次はなんの躊躇いもなくドアを開けたのだ。
 結果、詰まれた空き缶は、盛大な音を立てて玄関中にひっくり返った。対空き巣用のトラップに、家主自身が引っかかってしまったわけだ。
 片付けを余儀なくされる事になった平次は、深い溜息をつきながら空き缶をかき集め始めた。
 そんな平次の姿を横目に見やり、新一は小さく息をつくと、額にじんわりと浮かんだ汗をぬぐった。
 先程、この部屋に寄った時は、まだ、クーラーの冷気が残っていたが、そんなものは、とうの昔に消えて無くなっていた。
「テレビより、エアコンの方が先だったか」
 ポツリと呟いた新一は、エアコンのリモコンを手に取ると、スイッチを入れた。


 ※xsroadの結織さんとの合同誌です。テーマはあまあま(笑)
 でも、あまあまなど思いつかなかった綾部は、Pandraの続きを書きました。というわけで、平次の部屋に戻った後のお話。甘い……かなあ……。