■ 月の鏡 〜Vorspiel〜 ■
 A5フルカラー  92P 180g 平×新+快→平
¥ 1,000  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま
* 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *

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「ふうん」
 ソファーに寝転んで、ぼんやりとテレビ番組を眺めていた快斗が、おもむろに声を上げた。そんな快斗に、寺井は首を傾げながらその口を開いた。
「どうかなさいましたか?」
「いや。やっと出てきたなーと思って」
 言った快斗に、寺井はすいっとテレビに視線を向けた。そして「ああ」と短く呟くと続けた。
「エウリュノメの涙――ですか」
「ああ。ずいぶん前に、所在が分からなくなってただろ? まさか、こんな形で表に出てくるとは思ってなかったからさ」
「一般公開はいつから?」
「明日からだってさ」
「では」
 そんな寺井の言葉に、快斗は「う〜ん」と唸り声を上げた。
 そして、ゆっくりと身体を起こすと、テレビのスイッチを切った。
 今まで流れていたのは、明日から野木森美術館で始まる特別展の紹介番組だった。二十年近く行方が分からなくなっていた『エウリュノメの涙』という、三百カラットのダイヤが見つかったと、報道されたのが一ヶ月ほど前だった。
 そのダイヤが、件の美術館で展示される事になって、話題になっているのだ。
「しっかしなあ。持ち主も、よく、これを公開する気になったよな」
 手にしていたリモコンを、テーブルに置きながら言った快斗に、寺井は「そうですね」と言いながら、小さく肩を竦めた。
 この『エウリュノメの涙』は、曰く付きの代物だった。
 今回も、二十年近く所在がわからなくなっていたのだが、詳しく調べていくと、それ以前にもそういうことが何度もあったようなのだ。
 そして、宝石の所在がわからなくなるのは、決まって宝石を沢山の人間の目に触れさせた時なのだという。
 快斗自身も、『エウリュノメの涙』の所在をまったく調べなかったわけではない。だが、手掛かりを見つけることは出来なかったのだ。