■ 君に願う ■
 A6オフ  166P  平新
¥ 1,600  (140円)
Novel  綾部 澪 ・ 紫磨
 / Illustration  小椋さよこ さま

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Heiji-1


 その日は、曇り空だった。
 濃淡の違う灰色の雲が、幾重にも折り重なった、重い空。
 そのうち雨でも降るんかな。
 そんなことを思いながら、俺は空を見上げた。
 風が、ひゅうっと吹く。
 木枯らしというほど強くはないが、この天候のせいか冷えていて、俺は思わず首をすくめると眉を寄せた。
 上方へ投げていた視線を、隣を歩く工藤新一へと流した。
 俺でさえ、時折強く吹く風に寒いと思うのだ。それなら彼は、もっと寒いと思っているかもしれない。
 見やった口元。吐きだす息が白い。肌の白さと相まって、余計に寒そうに見える。
 首元から入り込む空気が冷たいのか、案の定、工藤は肩をすくめて縮こまっていた。
 その姿がどこかツラそうに見えて、少しばかり心配になる。
「工藤、マフラーあった方がよかったなぁ」
 何とかしてやりたい。
 そう思っても俺の手元には代わりになるようなものはない。それなら、早く家に戻るのが、一番いい方法だろうか。
 殊のほか工藤は寒がりだ。体温も低いのか、少し気温が下がったというだけで、震えていたりする。
 それに、暑いのも苦手だ。夏の、照りつける日差しと湿気を孕んだ熱気にいつも、水やりを忘れられてしまった花のように、くたっとなっている。
 前は、そんなことはなかった。
 いつだったか、工藤はそんな自嘲じみたセリフを吐いていた。
 俺は、その理由を知らないわけではないから。
 工藤がどんなに大変な思いをして「平穏な今」を手にしたか知っているから。
 だから、というのもあるかもしれないが、俺は、工藤のそんな姿を見ると、どうにかしてやりたくなるのだ。
 工藤が苦笑しながら、口を開いた。
「かもしんねぇな」
「はよ帰ろうや。何や温いもんほしいわ」
「だな」
 ふる、と身震いをして見せた俺に、工藤はふたたび苦笑をこぼした。

※ RelayNovel「キミニネガウ2」の加筆再録になります。大元はこちらに。