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Heiji-1 その日は、曇り空だった。 濃淡の違う灰色の雲が、幾重にも折り重なった、重い空。 そのうち雨でも降るんかな。 そんなことを思いながら、俺は空を見上げた。 風が、ひゅうっと吹く。 木枯らしというほど強くはないが、この天候のせいか冷えていて、俺は思わず首をすくめると眉を寄せた。 上方へ投げていた視線を、隣を歩く工藤新一へと流した。 俺でさえ、時折強く吹く風に寒いと思うのだ。それなら彼は、もっと寒いと思っているかもしれない。 見やった口元。吐きだす息が白い。肌の白さと相まって、余計に寒そうに見える。 首元から入り込む空気が冷たいのか、案の定、工藤は肩をすくめて縮こまっていた。 その姿がどこかツラそうに見えて、少しばかり心配になる。 「工藤、マフラーあった方がよかったなぁ」 何とかしてやりたい。 そう思っても俺の手元には代わりになるようなものはない。それなら、早く家に戻るのが、一番いい方法だろうか。 殊のほか工藤は寒がりだ。体温も低いのか、少し気温が下がったというだけで、震えていたりする。 それに、暑いのも苦手だ。夏の、照りつける日差しと湿気を孕んだ熱気にいつも、水やりを忘れられてしまった花のように、くたっとなっている。 前は、そんなことはなかった。 いつだったか、工藤はそんな自嘲じみたセリフを吐いていた。 俺は、その理由を知らないわけではないから。 工藤がどんなに大変な思いをして「平穏な今」を手にしたか知っているから。 だから、というのもあるかもしれないが、俺は、工藤のそんな姿を見ると、どうにかしてやりたくなるのだ。 工藤が苦笑しながら、口を開いた。 「かもしんねぇな」 「はよ帰ろうや。何や温いもんほしいわ」 「だな」 ふる、と身震いをして見せた俺に、工藤はふたたび苦笑をこぼした。 ※ RelayNovel「キミニネガウ2」の加筆再録になります。大元はこちらに。 |