■ キミニネガウ ■
 A6オフ  260P  平新
¥ 2,000  (210円)
Novel  綾部 澪 ・ 紫磨
 / Illustration  小椋さよこ さま

* 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *


Heiji-1


 車窓を流れる景色は、いつもと変わらないはずだった。
 それなのに、流れ去っていく景色がいつもとは違って見えるのは、気のせいだろうか。
 新幹線から見える景色が変わるはずがないのだから、気のせいに決まっている。
 頭ではそう思っているのだけれど、何故だか、心は躍っていた。

 いや――。

 何故、ではない。
 こんなふうに思うのは、俺がこの日を待ち望んでいたからだ。だから、ふとした瞬間に、口元が緩んでしまうのは、仕方のない事なのだ。
 どこか言い訳でもするように、俺はそんな事を思った。
 
 
 この春から大学生になる。
 自信がなかったわけではないけれど、それでも、試験が無事終わったコトに、ほっとしていたのは事実だった。
 試験と言えば、俺よりも工藤の方が大変だったとは思う。
 そんな事は、工藤はおくびにも出さなかったけれど。
 まあ、あのプライドの高い工藤が、そんな事を口にするわけもないのだが、工藤が何も言わないのならば、俺がわざわざ口にする必要もないわけで。それについて言及するつもりもなかったが。
 なんにしても、念願の東京だ。
 これで、東京大阪間を行き来する必要がなくなるわけだ。
 かなりの頻度で、行き来をしていたというのに、まさか自分が、この東京で暮らす事になるとは予想すらしていなかった。大阪を離れるつもりなど、毛頭なかったからだ。
 だが、丁度一年ぐらい前、状況が変わった。
 最初に会った時には『江戸川コナン』であった工藤が、元の姿を取り戻したから。

 ――いや。

 別に工藤が元の姿に戻れなかったとしても、自分は上京する事を選んだだろう。
 だから、工藤が『もとの姿に戻ったから』という事自体は、理由ではないのだけれど。
 だが、そんな理由など、どうでもいい事だった。
 春から工藤と同じ大学に通う事は、変えがたい事実なのだから。
 ともすると、にやけたままになりそうな顔をどうにか引き締めた俺は、ぱんぱんっと頬を叩いた。そして、小さく息をつきながら呟く。
「いい部屋が、見つかるとええんやけどなあ」
 上京するのならば、当然、住処も考えなくてはいけない。

※ RelayNovel「キミニネガウ1」の加筆再録になります。大元はこちらに。