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0、 今年の梅雨は、ずいぶん長引いた。 そろそろ、八月の声を聞こうという時期になって、ようやく長雨は形を潜め、このあたりは、つい昨日、梅雨明けの発表がされた。かなり遅めの梅雨明けだったといえる。 そして、梅雨が終わったかと思ったら、いきなりの猛暑だ。 確かに雨は止んだが、まだ、それなりに湿度は高い。せめて風でもあれば、滞っている空気を吹き飛ばしてくれそうだが、生憎、そう都合よくはいかないようだった。 「何で、こんなに暑いんや……」 何もしていなくても、ただ、暑い。 纏わりつく熱気に、げんなりしながら、平次はぽつりと呟いた。そして、ついっと窓の方に目をやった。 相変らず、風はない。 窓の外に見える、ギラギラと照付ける太陽が、なんとも暑くらしい。 「クーラー、入れるか?」 額にじんわりと浮かんだ汗を手の甲で拭った平次は、手にした団扇で風を送りながら言った。 心頭を滅却すれば火もまた凉し、をモットーとしている祖父にこんな泣き言を聞かれれば、きっと「修行が足りん」と一喝されるにちがいない。 「けどなあ。暑いもんは、暑いんや」 言った平次は、深い溜息をつくと畳の上に、ごろんと寝転んだ。 確かに、今からクーラーを使ってしまったら、夏本番を迎えたその時に、後悔しそうな気がする。寝苦しい夜にこそ冷房は必要だと思うと、今はまだ使うべきではないのだろう。 大の字になって、ただじっとしていると、ひとしきり汗が噴出した後は、少し涼しくなったような気がした。 「気化熱――か。便利に出来とるなあ」 ぽつりと呟いた平次は、横になったまま、ちらりっとカレンダーに視線を向けた。 あと二日で、八月になる。 う〜んと唸り声を上げた平次は、空を彷徨った視線を床に向ける。昨日充電しておいた携帯が、少し手を伸ばせば届く所にあった。 寝転んだまま携帯を手にした平次は、それを開くと小さく息をついた。 メールが届いた形跡はなかった。 「やっぱり、来とらん――か」 ぽつりと呟いた平次は、携帯をぽんっと投げ捨てた。 |