■ 風の欠片 〜Intermezzo〜 ■
 A5フルカラー  116P 210g 平×新+快→平
¥ 1,200  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま
* 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *

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 今年の梅雨は、ずいぶん長引いた。
 そろそろ、八月の声を聞こうという時期になって、ようやく長雨は形を潜め、このあたりは、つい昨日、梅雨明けの発表がされた。かなり遅めの梅雨明けだったといえる。
 そして、梅雨が終わったかと思ったら、いきなりの猛暑だ。
 確かに雨は止んだが、まだ、それなりに湿度は高い。せめて風でもあれば、滞っている空気を吹き飛ばしてくれそうだが、生憎、そう都合よくはいかないようだった。
「何で、こんなに暑いんや……」
 何もしていなくても、ただ、暑い。
 纏わりつく熱気に、げんなりしながら、平次はぽつりと呟いた。そして、ついっと窓の方に目をやった。
 相変らず、風はない。
 窓の外に見える、ギラギラと照付ける太陽が、なんとも暑くらしい。
「クーラー、入れるか?」
 額にじんわりと浮かんだ汗を手の甲で拭った平次は、手にした団扇で風を送りながら言った。
 心頭を滅却すれば火もまた凉し、をモットーとしている祖父にこんな泣き言を聞かれれば、きっと「修行が足りん」と一喝されるにちがいない。
「けどなあ。暑いもんは、暑いんや」
 言った平次は、深い溜息をつくと畳の上に、ごろんと寝転んだ。
 確かに、今からクーラーを使ってしまったら、夏本番を迎えたその時に、後悔しそうな気がする。寝苦しい夜にこそ冷房は必要だと思うと、今はまだ使うべきではないのだろう。
 大の字になって、ただじっとしていると、ひとしきり汗が噴出した後は、少し涼しくなったような気がした。
「気化熱――か。便利に出来とるなあ」
 ぽつりと呟いた平次は、横になったまま、ちらりっとカレンダーに視線を向けた。
 あと二日で、八月になる。
 う〜んと唸り声を上げた平次は、空を彷徨った視線を床に向ける。昨日充電しておいた携帯が、少し手を伸ばせば届く所にあった。
 寝転んだまま携帯を手にした平次は、それを開くと小さく息をついた。
 メールが届いた形跡はなかった。
「やっぱり、来とらん――か」
 ぽつりと呟いた平次は、携帯をぽんっと投げ捨てた。