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気づかなければよかった。 気がつかなければ、 今までと同じでいられたのに――。 1、 ついっと空を見上げた新一は、傾きかけた陽射しに、すいっと目を細めた。そして、右手で陽を遮ると、小さく息をついた。 まだ、七月に入ったばかりだというのに、今日も容赦なく暑い。茹だるような暑さに辟易しながら、新一はちらりと腕時計に視線を走らせた。 もうそろそろ、四時になろうとしていた。 集合時間は五時だった。まだ少し早いが、もう向かっても良いころだろうか――。 こんな時間ならば、店もそれほど混んでいないはずだから、迷惑もかからないだろう。それに、あそこならば、間違いなく涼しい。 そんな自分の考えに、大きく頷いた新一は、大学の目の前にある喫茶店『エニグマ』に、その足を向けた。 店の前で一旦足を止めた新一は、ちらりっと中の様子を窺った。思ったとおり、ピークは外れているらしく、店内に客は殆どいなかった。 ゆっくりとドアを押すと、からんっと、涼しげな鐘の音が鳴った。店内に一歩足を踏み入れると、冷たい空気がふわりと頬を撫でた。うっすらと浮かんでいた汗が冷やされて、すうっと体温が下がった。 |