■ InTheBlue〜空と海の狭間に〜 ■
 A5フルカラー  108P 200g 平新
¥ 1,100  (210円)
Novel  綾部 澪
 / Illustration  小椋さよこ さま

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気づかなければよかった。


気がつかなければ、
今までと同じでいられたのに――。




1、

 ついっと空を見上げた新一は、傾きかけた陽射しに、すいっと目を細めた。そして、右手で陽を遮ると、小さく息をついた。
 まだ、七月に入ったばかりだというのに、今日も容赦なく暑い。茹だるような暑さに辟易しながら、新一はちらりと腕時計に視線を走らせた。
 もうそろそろ、四時になろうとしていた。
 集合時間は五時だった。まだ少し早いが、もう向かっても良いころだろうか――。
 こんな時間ならば、店もそれほど混んでいないはずだから、迷惑もかからないだろう。それに、あそこならば、間違いなく涼しい。
 そんな自分の考えに、大きく頷いた新一は、大学の目の前にある喫茶店『エニグマ』に、その足を向けた。
 店の前で一旦足を止めた新一は、ちらりっと中の様子を窺った。思ったとおり、ピークは外れているらしく、店内に客は殆どいなかった。
 ゆっくりとドアを押すと、からんっと、涼しげな鐘の音が鳴った。店内に一歩足を踏み入れると、冷たい空気がふわりと頬を撫でた。うっすらと浮かんでいた汗が冷やされて、すうっと体温が下がった。