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新一 ― 1 「工藤が好きや」 最初にそう言ったのは、平次の方だった。 真っ直ぐな瞳に、嘘はなかった。 それは分かっていたけれど、その内容に些かの驚きを含みながら、新一は一瞬の間の後、口を開いた。 「分かってるのか? 俺は、男だぞ?」 そんな新一に、平次はただ、こくりと頷いた。 「ああ。そんなもん、十分わかっとる」 「――正気か?」 「冗談で、こんな事が言えるか?」 真剣なまでの平次の瞳に、新一はすうっと目を細めた。 冗談で口に出来るような、内容ではない事は、その瞳の奥にある、決意にも似た強い意思からも、感じ取る事が出来た。 あまりにも常識ハズレなその想いは。 意外にも、すんなりと新一の中に沁みこんだ。 もともと、平次に対して、そんな感情を持っていたわけではなかったけれど。 それでも。新一を知る誰よりも、平次は自分の事を分かってくれるだろう。そんな思いはあった。そう。あの、幼馴染よりも――。 自分が工藤新一であるという、根本が揺らいでしまいそうなほど、不安定だったあの時。平次にその名を呼ばれるだけで、工藤新一としての居場所があるような気がした。 平次がそこまで考えていたかは疑問だが、それでも、それが支えになっていた事は事実だった。 それに。 事件が起きた時に、自分と同じように考え、動けるのは平次だけだ。 そんな言葉を告げられる前から、平次を認めていたのは事実だった。 『俺は男だぞ』 そう言いながらも、新一の中に『平次が男だから』という、嫌悪感はなかった。 そんなふうに感じている自分にも驚いた。 だから。それを拒絶する必要はないと感じたから、受け容れた。その時は、そんな程度の認識だった。 それに、平次といるのは、とても楽だったから。 コナンであった時も、自分を偽る必要などなかったけれど、それは、工藤新一に戻った今でも変わらなくて。余分な言葉など要らない事が、とても心地よかった。 だが。それ自体が、平次が自分に向けるそれと同じような感情である事に気がついたのは、つい最近のことかもしれない。 いつから、そんなふうに思うようになっていたのかは、新一自身にも分からなかったし、何の因果でそんな感情を持ったのかも、理解できてはいなかった。 もともと『好き』などという感情が、どんなものなのか、よく分かっていなかったし、恋愛など、ある種の勘違いが重なって、そんな幻想を抱くのだと、そう思っていたから。 だから、自分が俗に言う恋愛感情などというものを、胸のうちに抱いていた事に、新一自身が一番驚いていた。更にそれが、平次が男だからとか、そういう次元の問題ではなかった事にも、驚いていた。 ハッキリ言って、異様、なのだと思う。 それは、この感情を認めた今でも、そう感じている。この感情自体を否定する気はなかったけれど、それでも、世間的に見て、それが不自然である事ぐらいは承知していた。 |