すべて、上手くいっていたはずだった。
 
 それが音を立てて崩れていくのが、分かった。
 きっかけは、何だったのか――。
 いや、それは自分が一番よく知っていた。
 ふいに触れた手が、すべてを狂わせたのだ。


 虚を衝かれた、とでも言うのだろうか。
 何の心構えもなく触れた服部の手は、
 冷たく冷え切っていた俺の手には
 とても暖かく感じられた。
 その暖かさが、恐怖を呼んだ。
 何故、そう思ったのか、自分でも分からない。
 だが、危険だ、そう直感が告げていた。
 だから、その手を振り払った。



 そう。
 それが均衡を狂わす『鍵』だった。


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■ 雨崩れの空を一段下る ■
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¥ 800  (210円)
Novel  綾部 澪 ・ かわい いつか
 / Illustration  小椋さよこ さま
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